当院集中治療部に入室した敗血症患者に対する静注用免疫グロブリン製剤(IVIG)の有効性

研究の目的について


私たちは,常に細菌やウイルスなど様々な病原体にさらされています。このような病原体に感染すると色々な症状が現れますが,実際には健康に生活している人が大部分です。これは私たちの体に,病原体から身を守る働き(免疫能)が備わっているからです。「敗血症」とは,生体のある部分で感染症を起こしている場所から血液中に病原体が入り込み,重篤な全身症状を引き起こす症候群です。背景として悪性腫瘍,血液疾患,糖尿病,肝・腎疾患,膠原病(こうげんびょう)といった基礎疾患がある場合,あるいは高齢者,手術後といった状態である場合が多いとされています。抗がん薬投与や放射線治療を受けて白血球数が低下している人,副腎皮質ホルモン薬や免疫抑制薬を投与されて,感染に対する防御能が低下している人も,敗血症を起こしやすいと言われています。悪感・戦慄(ふるえ)を伴う発熱が最も主要な兆候ですが,重症の場合には逆に低体温になることもあります。心拍数や呼吸数の増加もみられ,血圧低下,意識障害を起こしショック状態となる場合もあります。また,重要臓器が障害されると呼吸不全,腎不全・肝不全といった,いわゆる多臓器不全を併発することもあります。治療としては,感染症の治療を目的として強力な抗菌薬投与とともに,人の血液から取り出された抗体(免疫グロブリン)が医薬品として使用されています。人はある病原体に感染するとその病原体に対する抗体を産生して病原体を排除しようとしますが,十分な抗体が産生されるまでにはある程度の時間がかかりますので,免疫グロブリン製剤を静脈内注射(静注)することで免疫能が改善し治療効果が発揮されることが確認されています。静注用免疫グロブリン製剤は,私たちの血液中に含まれる免疫グロブリンGというタンパク質を高純度に精製・濃縮した製剤です。免疫グロブリンGの凝集体(免疫グロブリンGの一部が凝集したもの)が多く含まれた製剤を静注した場合,凝集したままの抗体が補体(免疫反応を媒介するタンパク質の一群)を異常に活性化してしまい,重篤な副作用が発生してしまいます。そのため,スルホ化という処理を加えたり,ポリエチレングルコールという物質で処理することで補体と免疫グロブリンGの異常な反応を抑えたり,凝集体を除いたり解離したりすることで,安全に静注できる製剤が市販されています。しかしながら,これらの処理方法の選択は各製薬会社により異なっています。よって,静注用免疫グロブリン製剤には処理方法の異なるさまざまな種類が市販されており,処理方法の違いによって効果に違いがある可能性がありますが,いまのところ明らかではありません。さらに,血液中の免疫グロブリンGの数値が低い患者さんほど重症度が高いことや,静注用免疫グロブリン製剤が有効となる可能性が考えられていますが,いまのところ明らかでありません。

本研究では,ICUに入室中に敗血症の治療に静注用免疫グロブリン製剤を使用された患者さんの血液検査データを解析して,静注用免疫グロブリン製剤が敗血症の治療にどのように有効であるのかを明らかにして,将来,敗血症の患者さんの治療へさらに生かすことを目的としています。

使用させていただく試料等について


本院集中治療部におきまして,既に敗血症の治療を受けられた患者さんの試料(電子カルテ上の血液検査データ)を医学研究へ応用させていただきたいと思います。その際,血液検査結果と診療情報(例えば治療効果がどうであったかなど)との関連性を調べるために,患者さんの診療記録(カルテやレントゲン写真など)を調べさせていただくこともあります。なお患者さんの血液検査データ及び診療記録(カルテ)を使用させていただきますことは本学医学部倫理委員会において外部委員も交えて厳正に審査され承認された後に行います。また,患者さんの検査データおよび診療情報は,国の定めた「臨床研究に関する倫理指針」に従い,匿名化したうえで管理しますので,患者さんのプライバシーは厳密に守られます。当然のことながら,個人情報保護法などの法律を遵守いたします。

患者さんの費用負担等について


本研究を実施するに当たって,患者さんの費用負担はありません。

研究資金


本研究においては,公的資金である集中治療部の病院研究費を用いて研究が行われますので,患者さんの費用負担はありません。

利益相反について


この研究は,特定の企業からの資金は一切用いません。「利益相反」とは,研究成果に影響するような利害関係を指し,金銭および個人の関係を含みますが,本研究ではこの「利益相反(資金提供者の意向が研究に影響すること)は発生しません。

研究の参加等について


本研究へ試料(血液検査データ)を提供するかしないかは患者さんご自身の自由です。従いまして,本研究に試料を使用してほしくない場合は,遠慮なくお知らせ下さい。その場合は,患者さんの試料は研究対象から除外いたします。また,ご協力いただけない場合でも,患者さんの不利益になることは一切ありません。なお,これらの研究成果は学術論文として発表することになりますが,発表後に参加拒否を表明された場合,すでに発表した論文を取り下げることはいたしません。 患者さんの検査データを使用してほしくない場合,その他,本研究に関して質問などがありましたら,以下の研究責任者までお申し出下さい。
研究責任者

879-5593 大分県由布市挾間町医大ヶ丘1-1
大分大学医学部麻酔科学講座 集中治療部 講師  後藤 孝治
電話番号 097-586-5943