教授ご挨拶

大分大学 医学部 麻酔科学講座
教授 北野敬明

大分大学医学部麻酔科学講座は昭和55年(1980)に旧大分医科大学に麻酔学講座が開設され、翌昭和56年附属病院が開院した当初は初代、本多夏生教授も含め7名の医局員でスタートしました。

平成9年(1997)より第2代の野口隆之教授の下、麻酔学講座は大分県内の周術期・集中治療・疼痛管理レベル向上と麻酔科学関連領域の発展のために活動してきました。第2代野口隆之教授は平成26年(2014)3月に麻酔科教授を退任され、大分大学附属病院病院長専任として病院改革を主導されておりました。野口病院長は2年前より闘病中でしたが、我々として非常に残念ながら平成26年8月19日にご逝去されました。

私、北野敬明(きたのたかあき)は、野口教授の後任として平成26年8月1日より、9年間務めた大分大学医学部医学教育センター教授から、麻酔科学講座教授に異動いたしました。現在の当教室は野口教授という非常に大きな指導者を失い、混乱の中にありますが、野口教授からの薫陶を糧に大分県地域の麻酔科学関連医療をさらにより良くするようスタッフ一丸となって尽力する所存ですので、今後とも皆様のご指導、ご鞭撻を宜しくお願い申し上げます。

大分大学医学部麻酔科学講座は最善の周術期医療を提供することを最大の使命にしており、手術麻酔を主とする手術部運営、術後管理も含めた集中治療部運営、疼痛管理のプロフェッショナルとしてのペインクリニックを3本の柱として、診療、研究、教育業務を行っております。

 大分大学附属病院手術部は旧大分医科大学の昭和57年度に1700例程度であった手術件数は平成24年度には約5500件の手術を実施できました。これはもちろん麻酔科スタッフだけでなく外科系各科活動の高さ、看護部、コメデイカルスタッフのチームの尽力によるものです。

 附属病院集中治療部も麻酔科学講座の大きな活動分野の一つで、昭和60年にICUを開設以来、現在ベッド10床で運営し、周術期の重症患者のみならず、院内救命、外傷、熱傷、小児、内科的疾患も取り扱い、年間約800例程度の管理を行っています。本院の集中治療部は専任スタッフが呼吸・循環だけでなく全身管理を主治医との共同下で一元管理するクローズドICU管理体制を行っており治療のレベルも非常に高く優秀な治療成績を上げております。

 ペインクリニックは麻酔科学の大きな活動分野の一つで、外来を週に5日、入院病床3床で疼痛を主訴とする患者、癌性疼痛患者の治療を行っており、硬膜外鏡下硬膜外腔癒着剥離術による「Failed Back Surgery Syndrome」の治療やエコーガイド下ブロックなどにより新たな分野の治療を試みています。またペインクリニックをベースに開業や緩和ケア-を行っている同門医師も10名に達し麻酔科医の一つの出口となっています。

 麻酔科学講座の研究に関しましては、教室開設時のメインテーマは悪性高熱でありましたが、現在は熱ストレスのみでなく、感染、エンドトキシンなどのPAMPS(pathogen-associated molecular patterns)やDAMPS(danger-associated molecular patterns)、虚血、外傷など様々な侵襲時の肝・腎・肺・心・中枢神経などの急性臓器障害の病態生理と新規治療法の開発を自然免疫、サイトカインネットワーク、アポトーシス、ショックタンパク、酸化ストレスの制御、新規血液浄化法、光による治療等の検討を多くの外部資金を得て行っています。また臨床研究は各種薬剤の循環・免疫系への作用、周術期栄養・代謝、各種ショック時のサイトカインネットワークの反応、血液浄化法に関するものが行われおります。

 麻酔科学講座の卒前教育(クリニカルクラークシップ)では先輩医師の診療時の思考・意思決定過程をその場面・場面で学んでいくことが一番重要な学習過程と考えます。しかし麻酔科実習は緊急対応時の手技も数多く経験できる環境であるためシミュレーションを含めた事前実習修了後に,学生に許容された医行為実習を安全な環境下で実施できるように努めております。研修医の研修においては,麻酔科研修は救急必修研修として1.5ヶ月の研修が組み込まれており、安全な環境で救急救命処置研修ができるのは手術部・集中治療部研修しか無いと考えており、研修医の皆さんの麻酔科選択研修を推奨しており,実際、研修医教育も積極的に行われております。

麻酔科関連領域のプロフェッショナルとなるためにはまず基礎領域専門医資格である麻酔専門医を取得することが最優先課題です。我々の講座では麻酔科専門医資格を効率よく取得できる研修プログラムを従来より提供しており、新たな専門医制度正式導入時の対応も十分です。

 現在の医師臨床研修制度導入後より、研修医の大都市での研修指向が高まり、大分大学でも研修医確保に苦慮しています。魅力的な研修プログラムへの改善も積極的に行い、大分地域の周術期医療の改善を担う後進を増やしていきたいと考えております。

 私は、旧大分医科大学を昭和59年(1984)に卒業(第1期生)し、その後大分医科大学生理学講座第1の山田和廣教授の下で、4年間大学院生として神経・筋生理の基礎研究を行いました。その後、麻酔科学講座に入局し、麻酔科、集中治療部、手術部で研鑽を積み、平成17年(2005)より大分大学に新設された、医学教育センター教授として、9年間大分大学の卒前・卒後教育の改革を主な業務として行ってきました。野口教授の御病気の状態が思わしくなく、急遽、野口教授の後任として指名されました。私自身まだまだ研鑽を積まなければと痛感しており、皆様のご指導、ご鞭撻を、数多く賜わると思いますので、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

私も卒後30年で感じることは、現在の講座とスタッフの関係の変化(学位取得から専門医取得指向への変化?)は明らかで、その関係は,今後さらに非常に希薄になる可能性があります。講座運営において、

(1)各所属スタッフのニーズは何か?そして講座は何を各スタッフに提供できるか?
(2)講座スタッフ=医師というプロフェッショナルとして果たさなければならない使命・行動は何か?

の講座所属のメリットと麻酔科医としての使命を明確に示し、講座運営をすることが私に求められている最大の使命と考えております。以上、長々と私の思いを述べさせて頂きました。もし大分県の周術期医療改善に尽力したと考える方がいらっしゃいましたら、微力ですが最善の対応をさせて頂きますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。